In My Room

【In My Room vol.06  髙橋知佳】 

本郷新記念札幌彫刻美術館 企画展 

昨年度に引き続き、本館展示室の一角を会場に、北海道で活躍する若手彫刻家を紹介する

「In My Room」を開催。今年度は3名の個展を約1ヶ月半ずつ開催。3名の作家それぞれが

独特の作品世界を展開します。(フライヤーより引用)

   

   会期/2014年1月18日(土)~2月23日(日)

   会場/本郷新記念札幌彫刻美術館 本館の一室

   休館日/月曜(ただし祝日の場合は火曜)   開館時間/10:00~17:00(入館は16:30まで)

   観覧料/一般300(250)円、65歳以上250(200)円、高大生200(100)円、中学生以下無料

   ※ コレクション展は  【裸婦研究】 会期/1月18日(土)-5月11日(日) 

 

   学芸員によるギャラリートーク/2月1日(土)14:00-14:30 

 

In My Room vol.06 髙橋知佳
(撮影:前澤良彰氏)

[仄見せる心](2012年、鉄)99*40*60 ㎝

[仄見せる心](2012年、鉄)37*115*47

すべての物事には、様々なかたちで相反する現象や感情が含まれていると考えます。

人によってその感じ方は、両端にある対極だったり、紙でいう表裏であったりするのだと言えますが、

相反する現象や感情のどちらかが実像、虚像ということではなく、どちらもそのものであり、

「世界のすべては緊張感に満ちて脆く、曖昧で揺らぎのあるもの」なのではないかと考えます。

 

ずっと抱えていた迷いや葛藤のありのままを受け入れた時、

自分が感じている混沌とした世界に形を与えたいと思うようになりました。

自身が感じる世界を「編む」行為は、その混沌とした世界に「かたち」を与える作業です。

同時に、内に抱えた様々な心を吐露する行為であり、自分の中にも存在する相反する心を昇華するために、

葛藤や混乱を「ほどく」行為でもあるのです。

 

[仄見せる心]は錆びた鉄線を編んで作った作品です。

金属の冷たい皮膚に、柔らかな体温を。

永遠と一瞬を。

顔のある女性と顔のない女性。

現実世界に生きているのか、眠りの世界に夢を見続けているのか。

それは私なのか、誰かなのか。

その心は誰にも見せたくないけれど、本当は見透かして欲しいのかもしれない。

鉄の鎧は頑なに守ろうとするけれど、零れでる光が容赦なくその心をさらけ出してしまう、その脆さを。

 

物事に内包されている相反する二つの側面を、透けているけれども確かに存在する、

二人の女性の光と影で表現しました。   

 

[亡霊のトルソ](2013年、木製パネル・鉄・ゴム風船)91*45*24

感情とはきっと温度や湿度があるもので、それは目には見えないが、

色彩に置き換えることはできるかもしれない。

膨らんでは萎み、消え、増殖したり破裂したりしたその残骸は蓄積されて

身体の中にとどまり続ける色彩。

いつか体躯は朽ちて風化しても、あの日あの時の体温や吐息は亡霊として取り残され、

色彩はそこから動けずにいるでしょう。可視化することが出来るのなら。

 

[声](2013年、鉄)130*34*34

本当に大切な想いは声にした途端に壊れてしまいそうで、

口に出来ないものだと思います。

 

 

自分の制作作業は、そのような想いの一つ一つを

積み重ねる作業だと思っています。

私が自分の作業を「編む」と表現するのには、そういう理由があります。


[逆さの堰](2013年、鉄)52*25*92

本郷新作品「堰」は自分の好きな彫刻です。

のびやかな身体が周囲の流れを一度堰き止め、作品を境に空気が一変する印象を受けます。

このたび、本郷新記念札幌彫刻美術館で作品を発表する機会を頂きましたので、

私はこの「堰」から着想を得て、作品を作りたいと考えました。

作品「堰」からポーズを拝借しながら、

「周囲こそ堰である(と感じる)」という内面からの真逆のアプローチで制作しました。

[籠もる](2013年、鉄)22*18*30

その意味は、気持ちなどはっきり形に表れないものが内に含まれている様子や、

内深く入って外からは察知しにくい状態になること。

 

私の作る立体はひとつひとつ手作業で編み、透けていて内は空洞です。

心を守る鉄の鎧を編みながら、零れでる光が容赦なく心をさらけ出してしまう、

その脆さありのままを受け入れています。

作品の内側には、見せたくないけれど見透かされたい、外からは見えない心が籠もっています。

正直に申し上げますと、作品の外側の空気よりも作品の内側の空気こそが

自分にとってはより重要なのです。